おつかいの話









本日も変わらずバイトに励む司馬懿だが、今日はいつもと少し違うところがあった。
時間帯が深夜ではないのだ。
春休みということもあり、人の足りない昼間の時間帯にかり出されているのである。
普段と違う客層や混雑、一緒に仕事をする人間に若干戸惑いながら仕事をこなす。
ピークを過ぎ一息ついた頃、やはりというか意外とというか、その人は現れた。

「今日は早いのだな」
「子桓さんこそ…昼間も活動するんですね」

相変わらずスーツに身を包んだ曹丕が颯爽と店内に入ってくる。
明るいうちに会うことが珍しいその人には、日の光は似合わないと司馬懿は思った。
その黒いスーツも相まってまるで吸血鬼のようだ。
マントもあれば完璧だと想像してみてあまりの違和感のなさに笑いそうになり思わず口許を手で覆う。

「…何をしている」

しかし不審な目で見られて取り繕うように咳払いをした。

「な、何でもないですよ、子桓さんこそこお仕事は?」
「休憩だ」

しれっとした顔の曹丕に仕事してるのかと疑ってしまう。
適当に会話をしていると来客を告げる電子音が響いた。
反射的にいらっしゃいませ、と声を出し、入り口を見る。
と、そこにいたのは子供だった。
恐らく小学校低学年辺り、おつかいでも頼まれたのだろう、きょろきょろと何かを探すように辺りを見回している。
それだけならば珍しい光景ではないのだが。

「…仲達」
「…何ですか」
「お前、隠し子でもいたのか」
「そんな訳ないでしょう」
「だが…あれは他人のそら似のレベル超えてるぞ」

そう、やって来た子供は司馬懿そっくりだったのだ。
多分同じ位の年齢の写真を見ればうりふたつだろう。
(弟でもあそこまでそっくりなのはいない…)
目を見張る程である。
二人で呆然としているうちに子供がレジにやって来た。
牛乳と食パンを腕に抱えているのを見かねて曹丕がレジ台に置いてやる。
驚いた様子の子供は次の瞬間満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます!」
「ああ…」

それを見た曹丕は戸惑いがちに応える。
照れくさいようだ。
興味が絶えないらしい曹丕は幼子に話し掛ける。

「おつかいか?」
「はい!」
「そうか、偉いな」

誉められた子供は嬉しそうにはにかむ。
そのやりとりを司馬懿はレジ打ちをしながら見守る。
金額を告げると握り締めていた札を差し出された。
レシートと共に釣りを落とさぬようにしっかりと小さな手に握らせる。
商品も持たせてやると子供はそれらをしっかりと持ってもう一度笑った。

「ありがとうございました!」
「気を付けて行くのだぞ」
「はい!」
「ありがとうございます」

しかしそのまま去るかと思った子供は曹丕の方をじっと見てきた。
まっすぐな視線に耐えられないのかたじろぐ曹丕に子供は頬を緩ませた。

「おにいさん、そうひさまにそっくりです」
「…え?」
「だいじなひとにかおとか、やさしいとことかにてます」

幸せそうに微笑んで子供が踵を返す。
声をかける間もなく子供はもう外へと駆け出していた。
司馬懿と曹丕は二人でしばし放心する。
狐にでもつままれた気分だ。

「顔はそっくりだったが中身は大分違うな」
「大きなお世話ですよ」

ようやく口を開いた曹丕に司馬懿は不機嫌に答える。
昔はあのくらい…とぶつぶつ呟くが曹丕は聞いていない。

「あんな子供が欲しいな」
「左様ですか」
「仲達、頑張ろうな」
「…保健体育やり直して来てください」

呆れ顔で憎まれ口を叩くが嬉しくないといえば嘘になり、司馬懿はふいっとそっぽを向いた。









エンド







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曹丕視点だとどうしても犯罪くさいので違う人視点にしたら不思議な感じになりました。(by蒼)

千鳥様、お待たせして申し訳ありません。
蒼さんのちまいを見てうっかり萌えてしまった海石です(死)
遅ればせながらちまいではじめてのおつかいを献上致します。
ご希望通りかは判りませんが、よろしくご査収下さいませ…返品も多分可でございます故^^; (by海石)