な、何故怒っているのですか




「怒ってなどいない」

明らかに不機嫌そうにそっぽを向いたまま曹丕はそう言った。
どこからどう見ても怒っているのがわかるが口にはしない。
そう言ったが最後、確実にへそを曲げる。
一日や二日で機嫌を直すことはないだろう。
それによる弊害を良く知る司馬懿はあくまで穏便に事を進めるべく、傍に歩み寄る。
ちらりと司馬懿を一瞥してまた顔を背けてしまった曹丕に声をかけた。

「私が何かお気に障ることをしましたか」

「……」

曹丕は無言のままである。
わかりやすい態度ではあるが追及はせず今度は懐柔を試みる。

「あなたに無視をされると悲しいのですが…」

「……」

少し淋しげに呟くと曹丕が一瞬だけ視線を寄越した。
無関心を装ってはいるが気になって仕方ないという顔である。
司馬懿にしてみればまだまだ幼い。
あと一押しだとばかり司馬懿は殊更同情を引くような台詞を告げる。

「あなたに嫌われたくはないのです…不愉快なところは直しますので…どうぞお言葉を下さいませ」

曹丕の足元に跪いて懇願する。
じっと曹丕を見上げて反応を待つ。
口を開かず視線も寄越さない曹丕に流石にあざといやり方だったろうかと内心焦っていると。

「…仲達が…」

司馬懿の顔は見ようとしないが曹丕が口を開いた。
司馬懿は曹丕を凝視してしまう。

「昨日の夜、寝る前に私のところに来ないから…」

何かあったのかと、心配で眠れなかった、と。
ぶっきらぼうに呟いた曹丕に司馬懿は身悶えた。

(何だこの可愛い生き物は!)

拳を握り締めて襲い掛かりそうになる自分を抑えようとする。
だが、無理だ。
曹丕はまだこちらを見ないが彼の人の耳が真っ赤に染まっているのを見れば、十分だった。
ゆらりと立ち上がり、曹丕を見下ろす。
それにより出来た影が曹丕の気を引いたようで、漸くこちらを向いた曹丕を司馬懿は衝動のままに抱き締めた。

「子桓様!」

「うわっ」

これには曹丕も驚いたようだ。
豹変した部下を必死で押し退けようとしている。
しかし司馬懿には子猫が戯れてくるようにしかもう思えない。

「あなたを淋しがらせるなど、仲達めが悪うございました!お詫びに今宵は一晩中添い寝させていただきます!」

「いらぬ!離さぬか馬鹿!」

「そのようなこと…余程あなたを心配させてしまったのですね…いっそ今から私の愛を証明して差し上げたい…!」

「止めよ!この変態め!」

「嗚呼、もっと罵って下さい…!」

騒ぎを聞き付けてきた陳羣に頭を竹簡で叩かれるまで、司馬懿の暴走は続いた。








エンド







++++++++++

この曹丕は十代前半なんです、きっと
最終的に仲達が変態になって満足です