雪の降る町



「寒い…」

少しでも温もりを求めようと首を竦めて、曹丕はぼそりと呟いた。
しんしんと降る雪と冷たい風が肌を刺す。
そもそも何故こんな薄着で出歩いているのかを考えて、曹丕は溜め息を吐いた。
ほんの少し、コンビニに行くだけのつもりだったのだ。
昼過ぎから雪が降るのは知っていたが、家から店までそんなに離れてはいないし、すぐに帰って来られるはずだった。
空は曇っていたけれど、しばらくはもつと思っていた。
しかしコンビニを出てみると、外はすっかり吹雪のような様相を見せていた。
マフラーを探すのが面倒で、適当にコートを手に取って出てきてしまったのが今は本当に悔やまれる。

「まさかこんなに早く雪が降り出すとは…」

今更呟いてみても遅いのだが、それでも口に出さずにはいられない。
白い息にうんざりしながら、とぼとぼと歩く。
そして俯き加減に進みながら、何度目かの溜め息を吐いたところで。

「子桓様!」

名前を呼ばれて弾かれたように声を上げる。
そこには息を切らせて駆けてくる恋人の―――司馬懿の姿があった。
呆然としながら、近付いてくる相手を凝視する。
目の前で足を止めた司馬懿は、呼吸を乱しながらも、差していた傘を曹丕の方へ傾けてきた。

「仲達…どうして…」

「どうしてもこうしてもありますか、急にいなくなったらびっくりするでしょう」

当然の如く怒った様子の司馬懿に、曹丕はぼそぼそと、調べ物してたみたいだから…などと反論する。
しかし司馬懿は関係ありません、と一蹴して、それから優しい手付きで曹丕の肩や頭の上の雪を払った。

「何処に行かれてたんですか?」

「コンビニだ…コーヒー切れてたから。
雪が降り始める前にと思って…」

次いで手早くマフラーを巻かれる。
大人しくされるがままになりながら、曹丕はうなだれた。
コーヒーを好んで飲む司馬懿の為にと思ったのだが、かえって心配をかけてしまったらしい。
ぎゅう、と掌に力を込めると、手にしていたコンビニのビニール袋がかさりと音を立てた。
そのまま顔を上げられずにいると、不意に頬に温もりが与えられる。
恐る恐る視線をやると、司馬懿の手が曹丕の頬に添えられていた。

「このように冷えて…風邪でも引いたらどうします……あなたが心配で側から離れてたくなくなってしまうでしょう」

指先が頬を擽る。
その声にはただ愛しさが滲んでいた。

「…仕事に行かぬと、父に怒られるぞ」

やっとの思いでそれだけ返すと、司馬懿はくすりと笑い、ではお風邪など召しませぬよう、と言った。
司馬懿の手が、今度は剥き出しの曹丕の手を包む。

「こちらも大分冷たい。手袋をお持ちするべきでしたね」

かじかむ指先をさすり、眉をしかめて呟く。
その言葉に、曹丕は恥ずかしそうに小声で注文をつける。

「…ならば、私の手が冷えぬよう、仲達が握っていればいい…」

滅多に言わない甘えた言葉。
ふわりと笑む気配がして、可愛い我儘に応えるように司馬懿の指が曹丕の指に絡む。

「では、帰りましょうか」

促す声にこくりと頷く。
手を引かれて寄り添いながら歩いて行く。

「雪…積もるだろうか?」

「天気予報ではそのように言っておりましたが…」

「今夜は冷えそうだ」

「あなたが寒くないように一晩中抱き締めていますよ」

「馬鹿…そういえば、自分のマフラーはどうした」

「ああ、急いでいたので忘れました」

「人のことを言えぬではないか」

「私は大丈夫なんです」

「根拠がないぞ…私だって仲達が風邪をひいたら…嫌だ」

「ふふ…では、早く帰りましょうか。
帰ったら温かい飲み物を作りましょう、何がいいですか」

「カフェオレ…」

「かしこまりました。
ほら、肩が濡れてしまいますよ、もっと此方へ」

「ん…」

二人の間でビニール袋がかさかさと鳴った。








エンド







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日記に放置していた小話を回収しました