何でもない話 今日も十年一日(中略)司馬懿の元に、その人間は今日も現れた。 「真面目に働いているか、仲達」 本日も仕立ての良いスーツを身に付けた曹丕は、コンビニに恋人に会いに来たようだ。 司馬懿は、はあ、とか、まあ、とか適当に返事を返す。 来てくれるのは暇つぶしにもなるし勿論嬉しいのだが、曹丕はいつ寝ているのかたまに不安になる司馬懿である。 しかし曹丕はそんな心配など知る由もなく、レジの前に展開された特売品コーナーが気になったようで、熱心に見ている。 「ふむ、この日本酒の入浴剤はどうなのだろうな」 「お気に召したら、おひとつ如何です?」 入浴剤や入浴時の美容グッズに興味を持つ曹丕に、司馬懿は店員らしくセールストークなどしてみる。 「お前はどのような具合か知っているか?」 「いえ、存じません」 曹丕が入浴剤の袋を掲げながら問うも、司馬懿は首を振る。 「店員なのにか?」 「そうは仰いましても…全て試すというのは難しいですよ」 溜め息を吐いて呟く司馬懿である。 コンビニの商品を全て試していては破産してしまう。 そんな司馬懿に曹丕は腕を組んでとんでもないことを言い出した。 「仕方のない、では、共に入って確かめてみるか?」 「……え」 予期せぬ言葉に思わず反応が遅れる。 驚愕の表情で曹丕を凝視すれば、さらりと言われた。 「そうすれば誰かに聞かれても答えられるだろう?」 正論のようだが正論でない。 そもそも一緒に入る必要がない。 色々な言葉が頭に浮かんでは消えていく。 とにかく諦めさせようと、司馬懿はしどろもどろ言い訳をする。 「それはその、確かにそうなのですが、ええと、入浴剤を入れると残り湯で洗濯が出来ぬので」 「うちで入ればよい」 「洗うの大変ですし」 「私が良いというのだ」 しかし意見は悉く却下されてしまう。 これでは埒が明かぬと、司馬懿は強気で曹丕に食ってかかる。 「そもそも、二人で入らねばならぬ必要性がないでしょう」 一瞬、間が空く。 反論してこない曹丕にこれは勝った!と心の中で勝鬨をあげていると。 「入りたいのだ…駄目か?」 先程までの強引な態度からは一変して、曹丕は恐る恐る、びくびくといったように司馬懿に請うて来た。 捨てられた兎のような弱々しいその態度に、司馬懿の対可愛いもの本能が擽られ、頑な決意が緩む。 「仲達…」 (くっ…こ、断れぬではないか!) 曹丕の攻勢は尚も止まず、司馬懿も遂に。 「わ、判りました…」 「本当か!」 喜ぶ曹丕を後目にがっくり項垂れながら、ああ自分は何処まで行くのだろうと先行不安な司馬懿であった。 「ほう…白いな」 「濁り湯らしいですよ」 曹丕が手で湯を掬いながら感心したように呟いた。 司馬懿はその様子を眺めながら合いの手を入れる。 結局司馬懿宅の浴槽の中で、曹丕は司馬懿を後ろから抱きかかえながら、日本酒風呂を楽しんでいる。 抱きかかえられながら日本酒風呂を楽しまされている司馬懿も諦めたように曹丕に凭れている。 結局入浴剤を購入した曹丕に半ば強引に誘われ、一緒に風呂に入っている司馬懿である。 純情な乙女ではないとはいえ、些か恥ずかしいのだが。 「酒の匂いはせんな」 「何処ぞの温泉のようにはいきますまい」 「とろみもあるのかないのか…」 文句を付けながらも楽しそうに感想を述べる曹丕に適当に付き合いつつ、司馬懿は欠伸を噛み殺す。 バイト明けは無性に眠い。 翌日休みなのは幸いだった。 湯船につかっていると眠気が倍増する。 ちょうどいい背凭れもあるし、流石の曹丕も意識のない人間に無体は働くまいと誤った認識の上で、司馬懿が寝てしまおうかとうとうとしていると。 「っ!!」 手が、腹の辺りを弄った。司馬懿は眠気を飛ばして目を見開く。 「し、子桓さん、何を…ッ」 「ああ…とろみの所為か、体にぬめりが付いている」 湯と戯れているとばかり思っていた曹丕の手が、その言葉を証明するように司馬懿の体を探る。 腹筋ばかりでなく脇腹、更には胸までをも撫でられ、司馬懿は戦慄く。 手を振りほどきたくとも狭い浴槽では思うようにいかず、ただなされるがままだ。 「んン…っ…しかん、さん…っ」 「何だ?」 にやにやと笑みを浮かべながら曹丕は手を動かし続ける。 明らかな意志を持って触れる手に、熱くなる体を抑えられず、司馬懿は何とか制止しようとする。 「や、止め…あッ!」 しかし白く濁った湯の中では、曹丕の手がどう動くかなど予測出来ない。 不意に最も敏感な箇所に刺激を受け、司馬懿が甘く声を上げる。 疲れて眠ってしまいそうだったことなど忘れたように欲望が走り出していた。 「ここ、どこだと…思って…っ」 それでもなけなしの理性で曹丕に訴える。 しかし返って来たのは一層の愛撫。 胸を、内股を、下肢を這う手に司馬懿は為す術もなく喘ぐ。 「風呂場だが…白くて丁度良いではないか」 「なにっ、んッ!」 そうして体中を撫で回されながら、耳元で囁かれたのは理解し難い言葉だった。 反論すると耳元に寄せられた唇が耳朶を食み、秘密を暴く。 「見えないと、興奮するだろう?」 「――ッ!」 びくんと体が跳ねる。 図星をつかれ、反応してしまった司馬懿にもう逆らう気力はない。 「ふぁ、あっ、あぁん」 理性は欲望の歯止めにならず、自分から腰を揺らしで快感を求める。 奔放に快楽に溺れるようになったのも、曹丕にそう仕込まれたからだ。 「ん、キス、して…」 「ふふ、仲達は可愛いな」 不自由な体を後ろに向けて口付けまで求めると、曹丕は笑みを浮かべて司馬懿の顎を掴み、ねだる様に差し出された舌を食む。 更に唇を覆われ、深く接吻を交わせば、とろんとした司馬懿の目が惜し気もなく晒される。 「ん、ふ…しかん、さん…」 素直に快感を追い始める司馬懿に曹丕は更に愛撫を施す。 かくして甘い時間が二人に訪れたのであった。 エンド ++++++++++ 現パラでちょっと発展型?(何) 色々限界です。 戻 |