1−3 涙に濡れる頬は恐怖に色を失ってはいたけれども、正にその肌は白磁の陶器に薄桃の頬紅が乗ったよう。 男の問いに小さく頷きながら、言葉を紡ぐ唇はほんのりと紅く色付き愛らしい。 頻りに不安を紡ぐ声は声が変わる前の少女のように涼やかで、眼前の大人への信頼を滲ませて舌足らずで甘く響く。 幼さ故の愛くるしさよりも、元服前であろう凛々しさが滲み出始めた美しさは、 同年代になる少年達よりも病的に華奢な体つきやすらりと伸びた裸足の脚も相俟って儚く、妙に惹き付けられる。 加えて着ている衣も白絹の単衣に藍染めの絹の上掛けと、 夜着にしては随分と優雅な代物で、少年が持つ気品をより引き立たせていた。 『成程、寵童か』と、荀ケ(いく)は内心で呟いた。 少年は、司馬懿を字で呼ぶからして司馬懿の子息ではない。そう、少年は寵童か、それに準ずる立場にいる。 司馬懿が断袖を好むと言う情報は荀ケ(いく)の記憶にも伝え聞く噂にも、疑わしさの一欠片とて無かったのだが、 最近になって『そちら』も嗜むようになったのかも知れない。 「そうかそうか…傍にいてやれなくてすまなかったな…」 男の声に、泣き止みかけていた少年は小さく頷いて…思い出してしまったのだろう。一つ二つと大きな涙が零れ落ちた。 司馬懿は少年の頬を自らの袖で惜しげもなく拭う。 その仕草は慈しみに溢れんばかりで、少年も穏やかな感情を感じ取ったのだろう。強張った体から目に見えて力が抜けた。 - - - - - - - - - - - - - - 2011/03/07 ikuri ケ(いく)様に断袖(稚児趣味)の疑いをかけられる仲達氏。 戻 |