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 …一体、彼は幾つなのだろう?
 荀ケ(いく)の胸にまた新たな疑問が過ぎる。
 すらりと伸びた手足は肉付きが薄いせいでかなり小柄に見せていたが、上背はもうじき初冠を迎えていたとて、可笑しくはない高さである。 だが振る舞いは童子に等しく、奇妙と言うに相応しい。
 荀ケ(いく)の属する曹操軍にも、壇上の少年位の子供が主君の次子に居たけれども、ずっと大人びていた。 尊敬する父親が多忙のあまり自らを全く顧みなくても、泣き言一つ言わずに自らを律していたのである。
 彼も未だ子供の内で辛くない訳は無かろうに、寂しげな眼差しを苦笑で細めて隠すような子であった。 もう少し甘えても我が儘を言っても構わないのだ、と言う大人達に彼はやっぱり大人びた顔で笑うのであった。

(…嗚呼、何故彼を思い出して…『死んだ』者など忘れなければならないのに…)

『…私なら大丈夫です』

(大丈夫であった訳がない。だからこそ貴方は―――…!)

 言えなかった言葉を思い出す。思い出したとて答えるべき人は亡く、無駄な事と知りながら。

「『…だって、』」
「!?」

(…え…?!)

 しかし、しゃくりあげながらの稚い声が、不意に記憶と重なり合わさった。 荀ケ(いく)は思わず息を飲み、眼前で弱々しく振られる細い首を思わず凝視していた。
 少年の細い肢体は横抱きにされ、髪から覗く頬だけが見える。 泣き濡れた顔にかかる前髪を司馬懿の手が掻き上げるのを見守るような心持ちで見つめ続けた。

(…あの、声…?)

 つ、と冷や汗がこめかみを流れていく。 知りたくない、知ってはいけないものを知る時にも似た。息苦しいのは、最早、威圧感のせいではない。

(あの少年、まさか…?)




- - - - - - - - - - - - - - 2011/03/27 ikuri
ケ(いく)様、心内は大混乱中。