1−7 『だから、きっと生きていらっしゃるのだ』 と言ったのは一人や二人ではない。 荀ケ(いく)も余りにも静かな状況に、もしかしたら、子供は生きているのかも知れない、とそんな淡い希望を抱いた事も幾度となく有る。 しかし実際、可能性は無いに等しく、真実を確かめる為にわざわざ人を遣る事はしなかった。 当時各地で戦が激しくなっており、そのせいで徴税も覚束無い状況に陥っていたのである。 例え曹丕が生きていたとしても、捜索に費やす金も、囚われていた場合の保釈金も到底出せる状況ではなかった。 ましてや過去に捕虜となった優秀な将達にさえも保釈を願い出なかった過去もあり、 『身内可愛さに動く訳にもいかない』と見送られてしまったのである。 嫡男ではなかったのも災いしたのだろう。 結果として非情な判断を下さざるを得ず、それきり、慌ただしさと気まずさに曹丕の話題に触れる者もいなくなった。 そして消息不明のまま一年が経過して今に至る。 「我慢などせずとて良いというに…、……は本当に良い子だ」 「!?」 ぐるぐると巡る思考の中、不意に聞こえた名前に思わず身が跳ねた。 (…今、何と?) 思わず彼らの口元を凝視する。彼らの唇から、荀ケ(いく)の求めている言葉が出たからだ。 心臓が煩く鳴る。鼓動が耳元で聞こえるかのようだ。 二人は荀ケ(いく)の心内での動揺に気付く事なく、親子とも恋人とも取れる柔らかな雰囲気で話している。 「……ちゅうたつ、おこってない…?」 「何故怒らねばならぬ? 斯様に子桓は…」 「曹丕様!!」 - - - - - - - - - - - - - - 2011/04/24 ikuri 漸く名前出た丕様。曹操軍が保釈金を出さなかったのは実話です。 そいえばこのシリーズ、懿丕の蒼さんに「ケ(いく)様ぐるぐるしてる」「仲達きもい」とか言われましたが、反論出来ませんでした…。 戻 |