1−9 「子桓?」 「…ううん、ない…」 柔らかに問う声に首が横に振られた。見つめ返す眼差しも信頼を滲ませている。 色白の細い手が首に回ると首もとに甘える仕草でしがみついた。 男が笑みを浮かべ、何事かを囁くと、小さく笑みを浮かべもする。 「だろう? それに此処は私の領地で私の居城だ。 何人も侵入出来ぬし、誰あろうと勇猛なる我が武将と、鬼才揃いの我が軍師達に勝てはせぬ…」 男が穏やかな声で言い続けていると、曹丕が司馬懿に従う武将達を見渡した。 謁見の間には同盟国の使者である荀ケ(いく)に敬意を表してか、 呂布や張遼、張コウの他、賈ク、陳宮、劉Yなど名だたる知将や司馬朗、 司馬孚など司馬一族でも取り分け優秀と言われる血族が居並んでいた。 曹丕は彼らの姿を順々に認めて、最後に司馬懿を見つめてから荀ケ(いく)にもう一度視線を向けた。 その時には、もう琥珀色の瞳に怯えは見られなかった。 如何にも荀ケ(いく)が非力そうであるのも一因かも知れないのだが、この状況は『安全』と判断したようであった。 「…さ、子桓、足を。身体が冷えてしまう」 司馬懿が白い爪先を覆いながら囁く。 子供はされるがままに足を任せ…いつの間に用意されたのだろうか…靴を履かせて貰っている。 深い紺地に銀の巧みな縫い取りが美しい靴は、白磁の細い足首をより引き立たせ、司馬懿の目が嬉しげに細められた。 - - - - - - - - - - - - - - 2011/05/07 ikuri 文字コードの壁に泣いた…。 戻 |