2−1 あれから一刻。 一旦、自分へと宛てがわれた部屋に案内され一息ついた後、 荀ケ(いく)は先程、司馬懿に謁見した広間とは別の部屋に再び案内された。 中庭に面した作りの居室は、広間があった建物より後方に在る屋敷であった。 調度品と建物の質と建物の位置からして恐らくは司馬懿の私邸か賓客用の屋敷か、若しくは詩会や宴で楽しむ為の場所であるのだろうと見当が付いた。 壁一面が無い作りの方へ視線を巡らすと、開け放たれた戸口から昼過ぎの明るい陽射しが眩い程に煌めきながら差し込んでいる。 視線を転じても、見事な枝振りの木々が青々と葉を茂らせ、美しい花々も今が盛りと鮮やかに咲いていた。 鳥も愛らしい声で惜しげもなく歌っている。 燦々と暖かな光が降り注がれるその庭はまるで桃源郷であり、乱世を微塵も感じさせなかった。 丁度その時、背後で司馬懿の訪いを告げる声がしていたのだけれども、それすらも心地良い光景の前には同化してしまう。 「荀ケ(いく)殿、お待たせしてしまい申し訳ない…どうぞお座り下され」 詫びる言葉に振り返り、膝を着いて拝礼をした。 室に入ってきたのは、司馬懿と護衛である数名の武将、そして司馬懿と手を繋いだ曹丕であった。 夜着から衣服を改めた少年は文官風の目にも鮮やかな蒼い衣に身を包み、年相応に凛々しく映る。 だが、荀ケ(いく)に警戒を強めてか、幼子の如く司馬懿の左手をしっかりと握り直したのが視界の端に見えた。 - - - - - - - - - - - - - - 2011/06/27 ikuri この仲達は君主なのに仔丕の着せ替えを始め、あらゆるお世話をします。 戻 |