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「…あとで、きっとむかえにきてくれる…?」
「ああ、終わったらすぐに迎えにいこう」
「ほんとに?」
「本当だ。約束する。だから子桓も良い子で遊んでいてくれるな?」

 真剣な眼差しで司馬懿が訊いた。 本当はきっと駄々をこねてでも此処に残りたいのだろう。悲しげに俯きながら曹丕が司馬懿の指先を握る手に力を込めていた。
 だが今回ばかりは司馬懿も譲らなかった。ただまろい頬をそっと指の背で撫でて、無言で退室を促している。

「……、」
「子桓?」
「……ん、わかった。しゅんがい、」

 不承不承ながらも、曹丕はこっくりと頷いて漸く手を離した。 代わりに張コウの手を取ると、先程司馬懿にしていたように強く繋ぎ、視線も司馬懿ではなく、張コウに向けられている。 変化の兆しに、張コウが嬉しげに笑んだ。 裏のない表情はとても明るく、少年の不安げであった表情さえも晴らしていくようであった。
 どうやら司馬懿にだけではなく、張コウにも心を許しているらしい。抱き上げられるのにも抗わず、自ら首もとに抱き付いていた。

「さあ子桓殿、参りましょう。…それでは殿、荀ケ(いく)様、我らは御前を失礼致します」
「ああ、頼んだぞ」

 子供を軽々と担ぎ上げた張コウが子供を落とさないよう軽く会釈し、背を向けた。 司馬懿が頷けば示し合わせたように羊コや司馬孚などの側近らが追従していく。
 武人の張コウとは違い、面立ちも物腰も柔和な彼らは護衛と言うよりも子供の精神を慮った人選なのだろう。 何より司馬懿の近親者である。 司馬懿が絶対的な安全の基準ならば頷ける事であった。
 残ったのはトウ艾と杜預の二人だけになった。彼らもまた司馬懿の子飼いと身内である。 武将でありながら軍師に引けを取らぬ知略を持つ彼らは、肩越しに手を振る幼子に手を振り返す己が主君の周囲を鋭い目で警戒している。








- - - - - - - - - - - - - - 2011/08/20 ikuri
 羊コさん(司馬師の正妻の弟/多分)は英雄ストーリーだと初っ端から仲達配下です。
 このシリーズ、師兄上はまだ生まれてない設定なんで色々おかしいんですが、そこはスルーで… (仲達配下で丕様に弓を教えてくれそうな弩適性Sの人は中々いないので…)