2−7 「貴方の御想像の通りですよ?」 言葉を詰まらせた荀ケ(いく)の言葉を遮り、司馬懿は一言で答えた。 彼が置いた湯飲みがカタリと硬質な音を立てて置かれる。 「…どういう事、でしょう」 「軍規を欠いた兵どもに、見目良い子供は格好の餌食…結果、あの様になっても何ら不思議ではありますまい」 「っ…!」 言葉の指す事実に、嫌な震えが背筋を伝った。 事もなげに答えた男は、おぞましい過去に震えた目の前の使者に言葉をかけるでもない。 ただ、何に対してだろうか不快そうに眉を顰めていた。 その表情も声音も、苦渋を噛みしめるかの如きもので、如何に酷い状態であったかは推して知ることが出来た。 「…寧ろ、あそこまで回復したのは奇跡と言えましょうな」 「…何故、我が軍にお知らせ頂けなかったのでしょう?」 荀ケ(いく)の声は穏やかであったが、問いには詰問する響きがあった。 だがそれは仕方のないことであった。 如何なる経緯、如何なる事情が在ろうとて、曹丕は同盟国の君主である曹操の実子。 それを保護したのならば、一報でも送るべきであったのだ。同盟国の義務の一つであるのだから。 しかし司馬懿は動じた様子も、使者の非難に気を害した様子もなく、ただ荀ケ(いく)を見つめている。 その瞳は荀ケ(いく)の瞳の奥にある思考まで覗き込むかの如き鋭さで、自然と荀ケ(いく)の瞳も鋭さを増した。 「では逆に問わせて頂きましょう。あの状態の子桓を、果たして貴軍は受け入れる事が出来ましたかな?」 「…当然です。曹丕殿は我が君の御子息なのですから」 「ほう…それは素晴らしい自信ですな」 司馬懿が深い笑みを浮かべた。穏やかだが、何処か嘲りをも感じられる顔で。そして彼は言い放つ。 - - - - - - - - - - - - - - 2011/11/06 ikuri ベタな設定で申し訳な…orz この前、蒼さんに「(海石さんは)厨ニ設定好きだよね。」と言われましたが、反論出来ない…。。。(あーあ…) 戻 |