2−8 「では何故、貴軍はその主君の大切な御子息を、あの様な場所に、斯様になるまで放置されたのですかな?」 「それは…」 探しもせずに、と司馬懿が言外に滲ませる。 あからさまな皮肉は抑え切れぬ怒りからのようで、静かな口調の端々に刺々しさが滲み出ている。 「貴方も御覧になったでしょうに。 誰にも怯える、あまりに無垢で哀れな幼子…あれが、貴軍が『主君の御子息』とやらにした仕打ちの結果ですよ」 「…ッ」 剣呑さの満ちる空気に気まずくなり荀ケ(いく)は俯く。司馬懿はそれ以上責める事はせず、再び手にした白湯を含む。 「……」 沈黙が痛い。黙りこくる二人のみならず、控えていた杜預もトウ艾も何も言わずに影の様にいるものだから尚更であろう。 司馬懿の不興を察し、曹丕への寵愛の深さを知っていて尚、何かを口に出す者はいないのだから。 そして、先程の口ぶりからして、恐らく司馬懿は…否、司馬懿達かも知れないが…全てを『知っている』のだ。 仕方がなかったとは言え、死線に一人残した曹丕を、曹操軍がどうしたのかを。 「…失礼致します、」 永久にも思える重苦しいその場を破ったのは、従者の声であった。 外と通じた戸口に身形の良い侍従が控えると杜預が出迎え、司馬懿は横目でちらりと見た。 彼らが一言二言何やら言葉を交わすと、それから杜預がそっと君主に寄り添って耳打ちした。 彼らの表情からはどのような伝達であったのかは一切読み取れなかったが、司馬懿が頷くと、 杜預は従者の待つ戸外へと舞い戻り、司馬懿もまた優雅な所作で椅子から立ち上がった。 - - - - - - - - - - - - - - 2011/11/14 ikuri 仲達親衛隊は、張コウ、トウ艾、羊コ、杜預、陳羣殿、司馬孚あたり。 戻 |