2−11 …賓客用に誂えたのだろうか? 興味のない庭弄りを敢えて完璧にしたのは、元の庭があまりにも酷かったか、はたまた下世話な話ながら、 寵姫にでも強請られたのかと邪推してしまう。 だが、至極合理的な思考の持ち主である司馬懿であれば政治的な意味合いがあっての事なのかも知れない。 他国の使者をもてなす際は、庭一つでも自勢力の豊かさを文化的にも財政的にも測られる。 満ちる月の如き勢力にしてみれば、僅かな傷が周りの完璧さもあって目立ち、悪評となってしまう。 例え主が如何に不風流だと知れ渡っていようとも、権威を失わない為には必要な事なのだ。 「そうでしょう。この美しさはどんなに目の肥えた名士でも賞賛せずにはいられませんよ」 「…それは、どうでしょう?」 くつ、と司馬懿は喉奥で笑った。有り得ない、と言わんばかりだ。 「また御謙遜を…」 「いえ、見せるつもりで作ったのではありませんから。 ですので、血腥い政治の駆け引きに使いたくは無いですし、 ましてやよくも知らぬ他人の目に晒したりさえも本当はしたくはないのですよ」 単に庭の事を口にしていた時とは違う、少し熱の籠もった口調。はっと司馬懿を見上げると、相手と視線がまともにぶつかった。 そして緩く笑みを浮かべた唇が荀ケ(いく)に染み渡らせるようにゆっくりと理由を紡ぐ。 「――此処は、子桓の為に作った庭ですからな」 「!」 子桓に見て貰うだけで良いのですよ。 荀ケ(いく)の考えを否定して男はにっこりと笑った。 - - - - - - - - - - - - - - 2011/12/19 ikuri このシリーズの仲達さんは丕様に対する愛と投資を惜しみません。 (貢ぎまくりな君主ってどうなのか…) 戻 |