3−5 今宵は満月であった。 青白色に染まる庭を月影に導かれるまま歩く。粟色の丸い月は煌々と荀ケ(いく)と庭を照らしていた。 卓には満月のように丸く黄色みのある粟饅頭。それは山と積まれ、美味そうに湯気を昇らせている。 円卓を見回せば、司馬懿を始めとして謁見の場にも居た将軍や親族達が囲むようにして座すところであった。 彼らは皆、点心の誘いに応じて集まったようであった。 「ほう、今日は粟饅頭か」 「厨房の自信作のようですよ」 司馬懿が腰掛けながら言うと、傍らの羊コが応える。広間は呼ばれた将達で賑やかしい。 その中心には司馬懿と、その膝に抱えられるようにして座っている曹丕がいた。 「子桓殿、特等席ですね」 「どれ、某も殿のお膝を拝借しますか」 すっかり甘える曹丕に羊コが穏やかに笑い、張コウがからかう。 子供がまた錯乱でも起こしたらと冷や冷やする荀ケ(いく)を尻目に、皆言いたい放題で、司馬懿も機嫌良く笑っていた。 「…だめ」 さもありなん、当然の如く司馬懿の膝上に陣取る姿は満足そうで。 腰に回された司馬懿の腕に絶対の安心を得ているのか、戯れに将軍達が揶揄しても、甘やかな声でくすくすと笑う余裕を見せる。 「ちゅうたつのおひざは、しかんの。…ね、ちゅうたつ?」 それでも司馬懿を見つめる瞳には本当に僅かな不安が滲んでいた。 だが子供の不安など見透かしていたのだろう。 抱き込める手に力を加えた男は力強く肯いたお陰で、子供は小さく安堵の笑みを浮かべた。 - - - - - - - - - - - - - - 2012/04/08 ikuri 一人っ子状態なので甘えたがりに育っているこのシリーズの子桓様…。 寧ろ、それを狙っている仲達氏ではあるのですが。(ぇ) 唐突ですが、こんな辺境の、しかもこんな趣味丸出しの設定でも良いと言って下さる方に最大の感謝とお礼を申し上げます…!(>ω<)ノシ 戻 |