3−7 「…しまった」 急に視界が開けて、己の失態に小さく声を漏らした。 歩いている内に、いつの間にか宴の間とは別の棟にある庭に出てしまっていたらしい。 道を戻ろうにも、細い小道を物思いに囚われながら来ていた上に、 今しがた厚い雲に遮られたせいもあって闇が濃さを増した木の夜陰に道が沈んでしまえば来た道を辿って帰る事も難しく、 見知らぬ場所故に改めて踏み入れようとは思えぬ程に不気味に感じる。 先程までは、こうして灯りなど持たずとて不自由なく歩けていたのに、しんと闇に沈む庭はとても広く、 木々の枝振りが良いせいもあって呑み込まれてしまいそうに存在が大きく見える。 (…昼間であれば、さぞ良い姿であろうが…) 嘆息しながら周囲を見渡した。 幸いな事に少し離れた場所に、庭に面した房室から灯りが漏れている。どうやら人がいるようであった。 屋敷の白い壁…漆喰であろう…の前に立つ衛兵達も見回りのそれではなく、護衛宜しく戸口に陣取り、鋭く周囲を警戒している。 ―――――これは不味いところに足を踏み入れてしまったのでは…。 これは厄介な事態になりそうだ、と思っている内に、指揮官と思われる将が庭への侵入者を察したようで、 手にした騎射用の弓をつがえて正確に荀ケ(いく)を狙ってきた。 周りの兵卒も上官が弓を引き絞るや否や、一斉に弓を引き絞っていた。 瞬く間に庭に満ちた侵入者への警戒や緊張、紛れも無い殺気が地面を通して荀ケ(いく)の足裏から這い登ってくるような心地がする。 芝生の上に置かれた篝火は弓の穂先を真っ赤に染め、無数の赤い牙が向いている様な錯覚を覚えた。 もし後一歩…そう、ほんの後一歩でも足を踏み出せば、その焔の如く鋭き一撃は容赦なく身を射抜くだろう。 そんな予感に一瞬背筋が凍ったものの、幸いにもその将は見知った将軍であった。 - - - - - - - - - - - - - - 2012/05/01 ikuri 回想から戻ってきたら迷子になってた荀ケ(いく)様。 あれ、この回萌ポイントが↑しかない…?(ぇ) 戻 |