3−11



「…ご無沙汰しておりました」

 先に我に返ったのは娘婿である陳羣…字を長文と言う…の方だ。震える指で燭台を置き、子供を起こさぬように、と会釈程度の礼をとる声は何処か気まずげであった。
 それは仕方のない事だ、と荀ケ(いく)は思う。陳羣は以前、曹操軍の官であったが、今、この何年ぶりかの再会は、軍を違えてのものであったからだ。

「…ご無事で良かった」
「荀ケ(いく)様も…ご健勝で何よりにございます」

 安堵と罪悪感と。再会に溢れ出る想いをありありと浮かべる眼差しは伏せられている。

「…許昌での送宴以来ですね。上庸の役の後、風の噂で劉備軍に降ったと聞いておりましたが…この様な形で再会するとは思いませんでした…」
「……」

 陳羣と最後に会ったのは、彼の送別の宴であった。 幾名かの将軍と共に、隣接都市の上庸侵攻戦を進めている前線、宛城への赴任が決まったのだ。前線では荒れがちな内政に力を入れる為の抜擢である。
 だが、赴任して暫くした頃、宛城は逆に攻め込まれてしまった。陳羣を含めて応戦した将や官ら数名が捕虜となり、ニ万に近い軍が壊滅した。
 乱世で敵将の待遇は死か降伏かの二つしかない。だが幸いにも陳羣は劉備にその卓越した政の才を買われ、官職まで与えられたのだと荀ケ(いく)は聞いていた。 捕縛されてから程なくして劉備軍へ投降したのも幸いしたのだろう。
 自軍にはその身代わりの早さを悪し様に言う輩もいた。 同じく捕虜となった者にはどうにか脱出してきたり、敵に首(こうべ)を垂れることを良しとせず潔く散った者がいたため、陳羣が潔く自決せずに早々に敵へ屈したことは余計に目立って見えたのだ。










- - - - - - - - - - - - - - 2012/06/19 ikuri
 ゲームでも曹操軍配下スタートの陳羣殿は途中で上庸侵攻中に捕縛され、劉備軍in上庸でほいほい仕えてたのを、 隣接都市洛陽の仲達氏(陳羣の親愛設定/あと曹丕と呉質も好き)がスカウトに行ったところほいほい鞍替えしてくれました。