3−13 「…ですが何故、司馬将軍の下に?」 けれど此処は司馬懿軍である。この軍は劉備軍との仲も曹操軍と劉備軍の間以上に悪い為、劉備軍から陳羣を買い受けることは余程の保釈金を積まない限り難しい。 まさか、陳羣を攫った…基、陰で軍を襲わせたのは司馬懿殿だとでも言うのかと、暗に陳羣に問うた。聡い彼は表情と声の不穏さだけで察したらしく即座に、『否!』と強く否定した。 「仲達殿…いえ、殿が私如きを得る為などに大切な同盟を蔑ろには致しません」 きっ、と見つめてきた両眼は鋭く、ひたすらに真摯であった。元より彼は実直な人物であり、虚言を吐くとは思っていない。 その言葉はすんなりと信じる事が出来た。『では何故?』と問うた私に、ふ、と困ったように陳羣は微かに笑って見せた。 「…情けなくも生き長らえた私を、殿が是非に、と仰って下さったのです…。 劉備軍の降将のままでは直接的にではないにせよ、何れ曹軍に刃を向ける事になるでしょう…しかし同盟国である殿の元でなら斯様な事にはなりませぬ…故に抜けて此方へ参ったのです…」 「そうでしたか…。何はともあれ生きてお会い出来て良かった」 再び荀ケ(いく)が言った言葉に彼は頷くように無言で頭を下げた。 その姿はやはり自分が良く知る男のままで感慨に心が満ちる。別れてから幾年月。荀ケ(いく)は彼の姿を眼にしていない。 敵同士になれば、武術も軍略も持たず戦に向かない陳羣は、戦場ですら見える事は先ず有り得無いからだ。 また家族愛しさに寝返る可能性がある男に、他軍への正使を任す事もない。見えるならばどちらかが滅びる時か、或いは一生涯死に別れるか…その二択しかないと言えた。 「…しかし何故、知らせて下さらなかったのです。私も娘も泰も皆、貴方を案じていたのですよ?」 - - - - - - - - - - - - - - 2012/07/02 ikuri そういえば陳羣はいく様の娘婿です。 でも親愛武将じゃないんですよね…何故ですかコエ様…。(義理親子では家族間の絆もない) 戻 |