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「…私は、仲達殿から多大な温情を戴きました。 微臣ではありますが生涯かけて御恩に報い、お仕えしていこうと思います。そうする事で旧主である曹操様へ御恩も返せれば、と…」

 陳羣が下に視線をやった。恥じる為でも、荀ケ(いく)の視線から逃げる為でもなく、溢れんばかりの慈愛を注ぐ為に。
 
「…まして今は、大事なお役目を戴いております」
「…曹丕様、ですか」

 問いに頷いた陳羣が見ていたのは、膝上で安らかな寝息を立てる曹丕であった。

「はい。僭越ながら傅役の任を勤めさせて頂いております。荀ケ(いく)様は御存知でしょうが、私は曹操様の麾下であった時、子桓様の傅役でありましたので…」

 以前の曹丕と本質的な気質は変わらないだろうから、と少しでも曹丕が過ごし易くなるのを願う司馬懿から直々に任命されたのだと陳羣は言う。
 司馬懿が何より案じ、全霊をかけて慈しむ曹丕を託されたという事に、彼への深い信頼を示された気がした。
 
「司馬将軍が貴方に預けた、という事は…貴方の事は覚えて…?」
「…いいえ。子桓様をお救いした時には殆ど全てを忘れておりましたから…」

 娘婿の顔が悲痛に歪んだ。

「…ただただ他人と暴力に怯える事しか知っていらっしゃらなかったのです…『曹丕』としての人格など、とうに無かった…!」

 その頃の子供の様子を思い出してか、彼は遣り場のない怒りや悲しみに拳を強く握り締めた。目頭が熱くなるのを抑えられないのだろう、ぽたぽたと涙が零れていく。

「…長文、」
「荀ケ(いく)様、同じ人なのに、どうしてあの様な事が出来るのでしょう…? 子桓様は、まだ子供だったのに、何故…!」











- - - - - - - - - - - - - - 2012/07/30 ikuri
 陳羣殿は丕様救出隊にいたっていう妄想してます。(むしろ今書いてます)