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「…子桓様は司馬懿様をお好きなのですね」
「……うん」

 荀ケ(いく)が問うと、曹丕は陳羣の腕の中で戸惑いを見せながらこっくりと頷き、荀ケ(いく)を横目で窺ってきた。 荀ケ(いく)の見知らぬ…けれど見慣れた色合いの両眼は、『お前はどうなのだ』と問い掛けているように見えた。
 実際、彼は司馬懿を全ての基準にしているから、ここで同盟如何は兎も角、司馬懿の敵だと認識すれば曹丕は二度と自分に近付こうとはしないだろう。
 嫉妬ならば兎も角、敵意を抱かれでもしたらそれは非常に拙い事になる。

「私も好きですよ。敬愛しております。私は司馬懿様の幼かった時から存じ上げておりますから」

 慎重に言葉を選び、子供に出来るだけ刺激を与えないようにする。幸いにも陳羣に抱かれた子供はおっとりと口を開くだけであった。

「そうなの…?」
「そうです。お家同士の仲が良かったのでよく行き来したものです」
「…それに、荀ケ(いく)殿は私の手本であったからな」
「…仲達殿、」

 声の主に陳羣が、声を抑えながらも喫驚する。戸口に目を遣れば、噂していた人物が酒精に些か赤らんだ顔で、護衛のトウ艾を脇に控えさせて立っていた。

「ちゅうたつ!」

 驚く大人達とは対照的に、子供は大人の腕からするりと抜け出すと、司馬懿に向かって真っ直ぐに両腕を伸ばした。 当たり前のように司馬懿が抱き締めると、子供は寂しかったと言わんばかりに頬をすり寄せる。










- - - - - - - - - - - - - - 2012/09/24 ikuri
 ようやく仲達氏登場…。託児所から子供を受け取りに来たパパ的な立ち位置ぽい。