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「子桓、遅くなってすまなかったな。大丈夫だったか?」
「へいきだ。ちょうぶんしふがいたから!」
「良い子だ、子桓も大人になったな」

 子供を抱き締めたままで、陳羣も坐す一段高い座敷の上に腰を掛けた司馬懿は曹丕を膝上に抱き寄せた。

「長文、長い間、ご苦労だった。何か問題はなかったか?」
「いいえ、問題は何も。子桓様は良い子にしてらっしゃいましたから」
「そうか。食事は?」
「お食事は未だです。殿を待つと仰ったので…」

 陳羣が困ったような苦笑を浮かべて首を振った。点心の時間から四刻(8時間)が経過している。育ち盛りのこの子供には決して良い事ではなかった。
 ましてや彼はか細く…しかも曹操軍に居た以前よりも比べ物にならぬ程にやせ細っているのである。

「…子桓、私を待っていてくれたのか?」

 司馬懿の問いに、こくりと稚い動作で子供が頷いた。 責めるような口調ではなかったが、食べなかった事は叱られかねないとでも思うのだろう。そのまま俯いていじいじと自身の袖を弄くっている。

「…だって、ちゅうたつといっしょがいい…」
「ああ、怒っている訳ではないのだ…」

 司馬懿が苦笑混じりに返し、優しい手付きで黒髪を梳く。その苦笑に暫し、じっと司馬懿を見つめていた子供は窺うように小首を僅かに傾げた。

「…じゃあ、いい?」

 子供は舌っ足らずに強請る。その姿は当然以前の曹丕には無かった事で驚きと共に酷い違和感が胸に重く蟠る。










- - - - - - - - - - - - - - 2012/10/09 ikuri
 子丕様の口調に悩む…今更すぎますが。。。