3−22 「…有難うございます。では、ご配慮に甘えると致しましょう」 荀ケ(いく)が了承の意を示すと、決まりですな、と嬉しさを滲ませた声で陳羣が応えた。 離し難いと思ってくれているのだろうか、手を繋いだままで司馬懿に向き直って一礼した。 「それでは失礼致します。おやすみなさいませ」 「ああ。…子桓?」 くんっ、と身を引かれた司馬懿が腕に抱いた子供を見遣る。何故そうされたのかと思っていたらしい男は子供の表情で容易く察したようだった。 「何だ、また拗ねておるのか?」 「…だって、しふばっかり…」 すん、と鼻を啜る音。泣き出した子供の頬辺りを彼が指の腹で撫でている。 全く仕方ない子だ、とくすくすと機嫌良く笑う司馬懿に、曹丕の、灯りに染まって黒目がちの目がしっとりと涙に濡れているのが目に見えるようであった。 「ほら、泣くでない…」 「ちゅうたつ、」 呼び掛けに抱き込める腕は優しい。だがそれでは満足しなかったのだろう、薄闇の中、細腕が大人を引き寄せる。 外では雲が切れたようで、月明かりが房内を照らし出す。妖しげに青白く光る腕は大人の頬を捉え、小さな唇が近付いていく。 「…荀ケ(いく)様、」 その光景に固まっていると、焦った様子で長文が袖を引いた。此処から退出しようという訴えに否やもある筈もなく頷いた。 見てはならない物位弁えている。 けれども。 「…すき、」 戸口にまで伸びた影が口付けたのを目にしてしまったのは交わしようがない事であった。 - - - - - - - - - - - - - - 2012/12/02 ikuri 仔丕からのちゅーは、あくまでほっぺにちゅーです。(仔丕だから) 戻 |