4−1 「どうぞ、一献」 陳羣が陶器の細い酒壷を傾ける。揃いの盃を差し出せば、嗅ぎ慣れた甘い芳香がふわりと漂った。恐らくは荀ケ(いく)の故郷である穎川のものなのであろう白濁の酒がとろりと満ちる。 「長文、返杯を」 「ありがとうございます」 そうするのが当然のように手元に置かれていた酒壷を陳羣に差し出した。 彼は満たされていく手元の盃と荀ケ(いく)の顔を見比べると、今此処に二人が在る奇跡を噛み締めるような小さな微笑みを浮かべたようであった。 「…それでは再会を祝して」 盃を挙げ、ささやかに再会を祝う。陳羣はまだ素面であったからか、勢い良く呷っていた。 「…ああ、良いお酒ですね…さあ、酒肴もどうぞ」 満足げに言う彼はすっかり寛いだ様子で、酒肴を勧めた。 司馬懿の元を辞した後、宣言通り陳羣は宴には行かず、荀ケ(いく)を先程の部屋とそう距離が変わらない一室に誘った。 先程いた執務用らしい部屋とは違い、生活調度品が揃えられていたそこは、宮廷内に陳羣へ与えられた私室だと言う。 宴に混じる心待ちではなかったのは、どうやら本当に荀ケ(いく)だけではなかったらしい。 室に足を踏み入れた途端に、やれやれ、と呟いたかと思うと、助かりましたね、と振り返った顔に安堵の表情を浮かべていた。 今は二人、すっかり腰を落ち着けて、二人きりの酒宴で月見酒と洒落込んでいる。 - - - - - - - - - - - - - - 2012/12/10 ikuri いく様と長文どのがセットになると、女子高生的同士のお茶会的なイメージになって困ります。 戻 |