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「幸いな事に、お二人の思考回路はよく似ておりましたからね…、殿は『もう一人の儂と対話したようで、実に有意義な会見であった』と申されていた位ですから」

 そう言った荀ケ(いく)は当時の、今よりも更に若かった司馬懿を思い出す。
 鋭く深い才知は、若き青年の躰に不思議な魅力と威厳を満たしていた。 彼がそうだと自覚していたかは定かではないが、自信に満ちた立ち居振る舞いは、劣勢にある城主とは思えぬ存在感で、それは同じく知略に長けた曹操に相通ずるものであった。

「あの邂逅こそが今日(こんにち)に繋がっているのですから…まこと、運命は糾(あざな)える縄の如し、ですね…」

 誰が今このような日を想像出来ましたでしょう?
 陳羣はそう呟いて酒を呷ると、不意に悲しげな笑みを浮かべた。

「長文、どうなされました?」
「いえ、返す返すも子桓様がお可哀想だと…災いなどもう無ければ良いのですが…」

 空になった杯に長文が手酌で酒を注ぐ。しかし、杯を満たすには足りず、外に控えていた侍女に声を掛けて酒の続きを命じた。
 彼らしくもなく深酒するらしい。すぐに運ばれてきた酒を早くも両の杯に注いでいる。

「…荀ケ(いく)様、もう曹操様にはお知らせしたのですか?」
「…一応、報告として文を送りましたよ」










- - - - - - - - - - - - - - 2013/02/12 ikuri
 泣いたり愚痴ったりする感じの悪い酔い方する長文殿推奨。