『将軍、いつか私に似合う花を贈ってくれませぬか』



 彼は己の花魄の王。いつの日も美しいままで己の前に佇んでいた。



魄の・1






「仲達!」

 緑の濃淡が美しい庭を、彼の姿を捉えた少年は蝶よりも軽やかに駆ける。
 季節を告げる千紫万紅の花英達よりも華やかに笑い、麗しく囀る小鳥より愛らしい声で彼を呼ばう。

「子桓、士載」

 側にいた弟君と共に立ち止まって待つ彼もまた、走ってくる少年…自惚れでなくば己も…を認めて、穏やかな微笑みを浮かべる。 仕事柄、一護衛の己などより余程神経をすり減らしているだろう彼の穏やかな表情に嬉しさと共に安堵を覚えた。

「仲達、見て! 士載が子桓にくれた!」

 飛び込むように大好きな殿の胸に抱きついた少年の手には、今し方己が捧げたばかりの花束。  鮮やかな黄色と橙色の花だけを集めたせいなのか、陽に一際眩く煌めいて少年と彼を彩る。

「ほう…これは綺麗だな。士載にちゃんと御礼を言ったか?」
「言った!」

 僅か一瞬の驚きの後、彼がくすくすと笑いながら少年に訊いた。 朗らかに返事をする少年は、養育する彼の躾の賜物と子供自身の心根の清らかさ故か、相手が一護衛なのにも関わらず確かに御礼を言ってくれていた。
 だが喩え礼など言われなくても、稚い仕草で花束を大切そうに抱き締めて微笑んでくれただけで充分であったろう。 たったそれだけのことではあるが、己には値千金以上の価値がある。まして、何よりも大事な主が少しでも喜んでくれたとあれば尚更に。











- - - - - - - - - - - - - - 2013/03/03 ikuri
 このシリーズで初めてタイトル着いた…。
 懿丕でほんのり?艾懿です。