花魄の王・3 (…摘んで帰ってみようか。) らしくもない妙案。本当は連れてきてあげたいのだが、子桓殿は洛陽に入城して以来、城外どころか『奥』から滅多に出た事がない為、それは叶わない。 初めは躰の治療と精神の安静を図ってのものであったが、今は身の安全を確保する為にも、不用意に外には出せないのだ。 だが、風雅を愛したという子桓殿の根本は、記憶が無くても、幼くなっても変わらなかった。 ならばきっと名も知らぬ野草とは言え、一瞬だけでも目を楽しませる事が出来るかも知れない。 「それで摘んで来たのか。すまぬな、造作をかけた」 「いえ、喜んで頂けたのであれば、幸いです…」 少年にも、少年を愛する彼にも。 彼がふわりと笑む。その微笑が自分だけに真っ直ぐ向けられて改めて主と二人きりなのだと実感する。 「喜ぶとも。子桓は綺麗な物を好むし、私や私の身内以外の他人に花を贈られるのも初めてだろうから」 「そう…なのですか…?」 思わず首を傾げた。幾ら表立った存在ではないとは言え、子桓殿が殿の寵愛を一身に受けている事は周知の事実。 時の覇者の歓心を得ようと、決して少なくはない者が、『我らが主司馬懿様の為に』などと尤もらしく嘯きながら、間接的に少年に胡麻を擂(す)っていたのだ。 風雅を解し、四季折々の花を愛でる子桓殿へ美しい花、珍しい草木の類が贈られていても不思議ではない。 不思議そうに首を傾げた己に、彼は少し笑う。 「ああ。この庭に大陸の彼方此方より集めた花々が咲いていると聞いているのだろう。敢えて貢ぐものは滅多におらぬのだ」 「!」 - - - - - - - - - - - - - - 2013/04/07 ikuri 箱入り息子な丕様。後宮にはまだ誰もいないので、尚更丕様の価値があがるわけで。 戻 |