花魄の王・4 この庭には曹丕の為に中華の各地のみならず外国の珍しい花々が集められ、一年中咲き乱れている。 それは庶民や貴族では手に入らぬ希少な物で、豊かで治安の良い交易都市を持つ主だからこそ手に入る。 名も無き野草など彼らには不要なのだ。 「これはとんだ失礼を…!」 『何と愚かな!』 慌てて膝を付いて伏した。身の程知らずにも程がある。 嘗ての様に成都の君主として贈っていたならば、まだ良かった。成都固有の種や異国の珍しい植物は、友好の証という大義名分もあって彼に贈るに相応しかったのだ。 何も考えずに烏滸がましい行動をしたのはその名残なのだろう。 しかし、あの頃とは訳が違う。国を失った己は殿に拾われ、一介の臣下となった。摘んで捧げたのは、何も珍しくもない雑草だった。 「…士載、面を上げよ」 恥入り、俯いた己の肩に白い手がそっと置かれる。御意、と辛うじて呟き、命じられるままに…しかし恐る恐ると顔を上げると、主が微笑んで口を開いた。 「何故、謝る? 庭の花々が如何に美しくとも、そなたのこの手で捧げられた花束に勝る筈があるまいに」 屈んだ殿が手を取る。戸惑いと困惑に視線を合わせられぬ臣下に構わず、彼が傷だらけの甲に己の頬を擦り寄せ、無骨で荒れた指先に唇を寄せる。 「…ああ、切れてしまっているな」 野で花を摘んだ時に切れたのか、皮膚が僅かに切れて血が滲んでいる。 分厚い皮膚では気づかぬ程の些細な傷で痛みもなかったが、そうされているとじくりと熱を持って疼くような気がした。 - - - - - - - - - - - - - - 2013/04/22 ikuri 懿艾ではありません。艾懿です。丕司馬でも懿丕でも肉体的に艾懿、精神的に懿艾です。(特殊性癖) 戻 |