花魄の王・5 「…殿、なりません…」 「何故だ?」 ちろりと紅い舌が指先で刹那艶めかしく踊る。指先は僅かに光っていた。風が互いの間を縫うと、そこだけがひんやりと涼しい。 「土で、きっと、汚れて…」 「血の味しかしなかったが」 仕舞いかけの柔肉が目に付く。 下腹から背筋を這うのは覚えのある感覚。 汚れよりも、昼間から何をと咎めるべきであったと漸く考えに至ったが、もう時期を逸してしまっている。 一瞬の接触にすっかり惚けてしまったのだ。 「なりません…殿、どうか」 「…ならば、交換条件だ」 離されたくはない。しかし、理性を手放す訳にもいかない。 再度、必死の思いで乞うと、主は意外にもあっさり手を離した。艶美な色ではなく少年の様な悪戯げな笑みを乗せながら。 「何、難しいことではない。ただ、約束を果たしてくれるだけで良い」 「…約束、とは?」 「『次にお会いするときには、貴方に相応しい花を捧げましょう…君主としてではなく一人の漢として』」 覚えのある言葉に瞼を見開く。歌うように紡がれた言葉は、当時とは互いを取り巻く何もかもが違うというのに一言一句違わぬもの。 それは晩冬の芽吹きを待つ寂しい長安の庭で、弱冠にも至らぬ二人が交わした約束事だった。 「あれ程の睦言を捧げておいて、そなたは昔、我が勢力へと西方の花を贈り、先は子桓に手づから摘んだ花束を贈った…妬ける事よな」 固まる己に関わらず、彼は命じる。 「次は、私に捧げよ。他ではなく、この仲達に」 - - - - - - - - - - - - - - 2013/05/13 ikuri 魅力ステ87の本領発揮。 史実でも君主な人は大体魅力が高いんですが、仲達氏は武力以外はおそそに次ぐチートパラメータ。 ※当シリーズは懿丕前提でうっすら艾懿と張司馬です。 戻 |