はらはらはらはら そのしろいすそにふりしきる はらはらはらはら うつくしかんばせうもらせる あかいくちびるのうすしろく やわしほほのうすしろく ふせるまなふたのうすしろく あれはゆきのはな しらはなのふぶき もゆるふみのはい うつくしきみをほうむりぬ その日、軍一番の功臣とされし男の葬儀は、哀れみを誘われる程にひっそりと行われた。 時代の狭間、動乱の世に在って尚、自らを省みず世の安寧の為、国の為にと生きた男。 しかし彼を労うべき主も、彼に守られていた神も、姿を現す事も弔辞一つ送る事もせず、 彼の一族と親しかった名士の幾許かが弔問に訪れていただけであった。 …皆、命が惜しいのだ。 手向けの華を、鬼籍の人には不似合いな程の粗末な棺に添えながら、悔しさに唇を噛んだ。 主と道を違えた。たったそれだけの事で彼は死んだ。 失意のあまり病に倒れた後、毒を呷ったのだとも短剣で喉を突いたのだとも、 まことしやかに噂される程、彼の死は穏やかなものにはならなかった。 …どうして、貴方が…。 見目も、人望も、身分も、教養も、気質も。何一つ欠点がなく完璧な男。 主の寵愛深かった彼の失脚と死は、名士達は元より主を戴く臣下達にも、或る一つの現実を突きつけ、 静かな諦めとぼんやりとした絶望を与えていた。 何一つ欠ける事なき身にさえも終生の寵愛など存在せず、いつでも誰かが己の代わりに取って代わるのだと。 眠る彼の顔は死が齎した安らぎで穏やかであったが、しかし何処となく苦渋が染み込んでいて窶れていた。 主に言わせればきっと退廃的な美しさと称しただろう。 不意に、その姿を自身の将来に重ねてしまいそうになり、静かに首を振った。 曹丕の情の篤さは、その冷酷さと共に皆の知る所であり、その中でも側近中の側近である司馬懿に対する情は一際深かった。 …そのような未来など来る筈もない。 否定するかのように、うっすらとした微笑を顔に浮かべる。つきり、と痛む胸には気付かない振りをして。 - - - - - - - - - - - - - - 2011/02/20 ikuri 慎終…父母の葬式を丁寧に執り行う事。終わりを慎重にして立派にやり遂げようと努力する事。 仲達と丕様的模範=ケ(いく)様=父母。(苦しい流れ…!) 戻 |