「…」 ぱきり、と乾いた木の割れる音がする。あれは曹丕が薪を増やした暖炉の音か、否、火に巻かれた彼の方の書簡の断末魔か。 『…「王佐の才」、と呼ばれても国が沈むのを止められない時も、主君の進む道をどうにも出来ぬ時もあります』 (歴史が動く…) 荀ケ(イク)という名の歯止めを失った時代はこれから激動していくだろう。 荀ケ(イク)の志した帰着点、皇帝と覇者が共存する未来は断たれたのだから。 乱世の覇者は魏王に、そしてその若君は魏帝に、800年続いた王朝は過去に、最期の皇帝《神》は只の人に。 もう、彼を捨てた此岸には、彼の未来は一欠片も無い。 『いつか違える事を相知りながら、互いに見ぬふりをして…ある日、その距離の大なる事に決断を迫られたのです。 …そうして、片方が犠牲になった』 (決断は我等には必要ない) 道は曹丕が至尊になる、たった一つきり。初めから曹丕の歩む道に寄り添い歩んで行く事に疑問を抱いた事はないのだから。 『貴方が抱かずとて、主も周りも抱くのですよ。…ですから、貴方もきっといつか。そうでしょう?』 …嗚呼、甘やかな声が呪いの毒を紡ぐ。 - - - - - - - - - - - - - - 2011/09/19 ikuri すぐ3連休で更新なので、短文で。 このシリーズの仲達は、ケ(イク)様リスペクトと丕様愛でいつになく女々しいような感じだと我ながら思います。 戻 |