―――――【 白尽 ・前篇】―――――



けむるゆきはつめたく きみをかくしてとけゆく

 その年、昇進した。同時に、曹丕の傅役から解任された。
 曹丕が充分に大人になったから、と言う理由であったが、元より元服し終え、 成長していた曹丕の傅役として配された過去からすれば今更の…とってつけた理由のように思えた。

(単に組織編成の為ではあるまい…子桓様から離させたいのか…或いは彼を孤立させたいのか…)

 確かに荀ケ(イク)の急逝により、若干上に空席が出たが、 此を機に荀ケ(イク)よりの名士達を遠ざけようとする意図もあるようで、 互いに組みせぬ様に配置換えをし、一部は地方へと赴任させていた。
 名士出身の己もまた曹操に警戒されている身だからか、昇進とは言え懇意にしている曹丕と離された。 それに何処か悪意めいた物を感じてしまうのは仕方がないだろう。
 曹丕は常日頃から父親達から司馬懿を庇ってきた。 故に司馬懿を害そうとするならば、その加護が邪魔になる故に曹丕から引き離さねばならないのだから。
 今や曹丕と会うのさえ儘ならず、曹操の秘書官の一人として竹簡を手繰り寄せる日々。
 無味乾燥な仕事などとは決して言えまい。 以前よりは政の中央にある官職のため、扱う情報の重要性も裁く量も格段に上であった。 大局には直接影響しまいが、その一つ一つが己にとっても、 また主にとっても何れは上を臨むため、国を手ずから動かす為に必要になる。

「…曹丕様付の官には地方に飛ばされた者も…」
「曹植様の官は皆昇進したとか…」
「曹丕様もいよいよ…」
「…だが、隣県の叛乱を曹丕様に任せられたとか…」
「わざわざ大切な御嫡男を征かせる賊でもありますまいに…」

 だが、どこか虚しかった。 曹丕がいないせいだ。 代わりに在るのは己の保身ばかりにかまける愚かな同僚達ばかりで、 ささくれる心にはただその者達の話す噂話ばかりが耳に付いて、余計に煩わしい事この上ない。










- - - - - - - - - - - - - - 2012/02/06 ikuri
 タイトルは粛清イメージと丕様(白)一色な仲達?(ぇ)

 白尽…残らず白くなる。