winter fall



「ちゅうたつすごい!ゆきがいっぱいふってる!」

傘も持たずに外へと駆け出した幼子が興奮しながら振り返った。
滅多に見せないはしゃいだ様子に、司馬懿の顔も綻ぶ。
その日はもう三月だというのに、酷く大気が冷えていた。
朝からどんよりと曇っていた空は次第に涙を溢し初め、それが白い結晶となるのに時間はかからなかった。
それほど長く降った訳でもない雪は、アスファルトを白く染め上げながら、尚も止もうとしない。
その様子を飽きもせず、目を輝かせながらうずうずと眺めていた曹丕にコートを着せた司馬懿は子供の手を引いて外へ出た。
途端に我慢出来なくなったのか、曹丕は銀世界へと飛び込んでゆく。
転ばないように、とだけ声をかけて、司馬懿は傘を差してその後を追う。
さくさくと慎重に雪を踏んでは足跡を眺め、絶え間なく降り注ぐ雪を見上げては手のひらに結晶を掬う。
くるくると回るように雪と戯れる曹丕を、司馬懿は眩しそうに見つめた。
しばらくして曹丕が司馬懿の元へと戻ってきた。
頭に乗せた雪を払ってやり、寒さからか紅潮した頬を掌で包むと、曹丕はほっとしたように吐息を洩らす。

「寒くはないですか?」

「へいきだ」

それでも司馬懿の温もりに甘えるように目を閉じて笑みを浮かべるのは、やはり冷えているからなのだろう。
体温を分け与えながら至極楽しそうな曹丕をいとおしげに見つめる。
不意に衝動に駆られ、額に唇を寄せた。
そのまま鼻先、眦、頬と顔中に口付け、再び視線を合わせる。
突然のことに目を丸くしていた曹丕だが、すぐに表情を綻ばせて体を擦り寄せてきた。
その体をきつく抱き締める。
雪のまばゆい白さに映える輝くようなあなた。
そのそばにいる自分。
なんという幸せだろうか。

「ちゅうたつ…あったかい?」

「えぇ、とても…」

雪は相変わらずしんしんと地に落ち続けている。
隔絶されたような白い世界は、まるでこの世に自分たちだけしか存在しないかのように、ふたりを優しく覆い隠していった。








エンド







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どこに置くか迷った挙句あまりにも短いのでここへ。
雪にはしゃぐちみぴは最近お疲れ気味の海石さんへ捧げよう!