廃虚








瓦礫の山の中を歩く。
所々で燻るように煙を上げる其れらを横目に、司馬懿は何かを探していた。
敵軍も自軍も入り乱れた兵卒たちの死体。
夥しい量の血。
破壊し尽くされた町。
戦の爪痕の残るその場所に、最早命のあるものはないように思える。
それでも半ば確信を持って司馬懿は歩く。
宮殿へと続く道の先の、長い長い階の上。
―――もう死んでいるように見えた。
地面にうつ伏せに倒れ、ぴくりとも動かない。
ところどころ焼け焦げ破れた披風にくるまり、守られるように横たわるその人。
傍らに跪き、そっと体を起こさせる。
力の入っていない体が腕にずしりと重い。
頭ががくりと項垂れ、白い喉が露になる。
それと同時に日の光の下にその面が晒された。
ところどころ傷を負ってはいるが、それは紛れもなく曹丕だった。
己が手にかけ、殺した筈の青年。
己の考えを理解せず、己に刃を向けた曹操の子。
その程度の人間を己は、瓦礫を掻き分けてまで探した。
何故かと己に問うことは出来なかった。
答えを出すことが恐ろしいからだ。
この国を手に入れるために、その他の全てを捨てたのだから。

「…貴公と共に天下を描くのも…悪くはないのだが…な…」

何時の日だったか、背中に投げ掛けた台詞を繰り返す。
あれは確かに本心だった。
しかし自分は此処まで来てしまったのだ。

「愚かなことだ…」

呟きは誰への嘲りか。
曹丕の口元に手を翳せば、か細くも吐息が触れる。
それを確かめると、司馬懿は曹丕を抱いたまま立ち上がり、戦火に焼かれたその場をあとにした。








エンド







++++++++++

二文字御題から「廃墟」
無双5司馬懿伝の許都侵攻戦直後くらい。
オフ本の「侵蝕」と似た雰囲気だけど諦めてる司馬懿です。
あっちの司馬懿は往生際が悪いです。