■6月 牡丹



馬超のことを、馬岱は花のようだという。
花といえば可憐で美しいものだという印象を持っている馬超としては、この表現をされると、少し違和感を覚える。
女性的な容姿はしていないし、か弱く見られるような鍛え方はしていない。
言い様によっては誹りのようにも聞こえるが、どうやら従兄弟にその気持ちはないようであることは判る。
なぜなら、馬超を花に擬える時、馬岱の表情はとても嬉しそうだからだ。
一点の曇りもない瞳でそのように言われると、非常にむず痒い。
今も、そうだ。

「ほら、若、牡丹だよ、綺麗だね」

「ああ、見事に咲くものだな」

「うん、ほんと、綺麗、若みたい」

ぽつりと呟かれた言葉に、馬超は目を瞠る。
隣の男の顔を盗み見れば、うっとりと綻んでいるのが見えた。
どうやら本気でそう思っているようだ。
悪気は全くないようなので、文句を言おうとは思わないが、呆れにも似た感情は残る。
いい機会だと、本人に言うことにした。

「どこが俺のようだというのだ」

「…え、口に出してた!?」

なんと、無意識だったようだ。
これは新発見である。
聞いてみるものだと、なんだか居た堪れなさそうにしている馬岱を、更に問い詰める。

「いつも出ているぞ。花を見る度に俺に言うではないか。どういう了見だ」

「えぇー…なにそれ恥ずかしい…うーん…言わないと駄目?」

「駄目だ」

言い難そうにしているが、馬超には関係ない。
喋るように促すと、暫く唸っていたものの、渋々口を開いた。

「えーっとね、花って、強いんだよ。野生でもちゃんと咲くし、冬に咲くのもある。枯れても、次の年にはまたちゃんと咲く。それが、それがすごく若っぽいなって、いつも思ってるから」

口に出ちゃってたみたい。
少し照れ臭そうな言葉。
それを聞いた馬超は、茫然としていた。

(花は、強い?)

それは馬超の認識とは真逆のものだった。
貧弱なものだとばかり思っていた存在は、目の前の男の一言で、すっかり印象を変えてしまった。
目から鱗が落ちた気分で馬岱を見ていると、従兄弟は何を思ったのか。

「あ、でもね、美人なところもそうだし、華やかなところなんてまさに若!って感じ!そうだ、知ってる?牡丹って、百花の王って言うらしいよ。豪華な花だし、堂々としているし、若にぴったりだよねぇ。髪飾りにしたら似合いそうだよ!」

聊か興奮した様子の馬岱に、何も言えずに馬超は押し黙る。
その表情は何でもない様子を装っていたが、心の中では大層身悶えていた。
少しでも気を抜いたら、羞恥のあまり、可笑しな顔になりそうだ。

「花は、関索殿の方が似合うだろう」

威厳を保つため、何とか堪えて、そう返す。
だというのに、目の前の男はそれを容易く崩そうとする。

「若に付けて欲しいんだ、きっと似合うよ」

先程とは打って変わった優しい声音。
そんな風に愛しげに微笑まれては、拒絶できないではないか。

「…お前がそう言うのならば、もうそれでいい」

ふいと顔を背けての言葉は、酷くぶっきらぼうな物言いになってしまう。
だが、そんなことには構っていられない。
そうでもしなければ、きっと真っ赤になった顔を隠せなかっただろうから。
馬岱はまだ馬超を褒めそやしているようだが、熱を冷ますことに必死な馬超の耳には入らない。
それでも。

(まあ…これほどに思われるのは、悪くはないものだな)

ちなみに、自重を止めた馬岱が、ことあるごとに馬超を花に譬えて賛美するようになり、その度に頭を抱える羽目になることを知るのは、数日後のことである。








エンド







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岱超です。
関索も馬超もお花ちゃんだよねっていう。
201407…あまりにもひどい誤字を直しました…