1,Witchmakers
今回私の世話係は女だ。
さっき覗き見て来たのだが、中々頭のキレそうな奴。
だがな、何人も私には敵うまい。
さて今回の世話係はどこまで私について来れるか、見物だな。
Witchmakers
「曹丕殿!なりませぬ!」
「煩い。ならばもっと私が退屈せぬものにしろ。私を其処らの餓鬼と同じに見ているようにしか思えん。不愉快だ」
さめざめ泣き出す世話係。
つまらん。
この女も、この世界も。
暫く世話係の居ない日々が続く。
父もよく考えてから私の世話係を選んで欲しいものだ。
「(…私の性格を把握していないのだ。仕方の無い事か)」
父の自室を覗き込んだ。
いつもは私の教育係の目通しの時間だったのだが、父は私の弟達を愛でている最中だった。
従者も控えていない様子を見ると、この後の来客は無いみたいだ。
無理に世話係をつける必要は無い。
そうだ。
元々私に世話係など要らぬ。
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2,Witchmakers
「早上好」
「誰だ貴様は」
「今日から曹丕殿のお世話をさせて頂きます、司馬懿と申します」
「、…父には会ったのか」
「はい、昨日」
気付かぬうちに私の背後に居たこの男。
只者ではないとみた。
しかも
「参りましょう。勉強のお時間です」
私の手を引いて歩き出した。
「……おい」
「はい、何ですか」
「私は曹孟徳の嫡子だぞ」
「存じております」
「知っているなら何故手を…」
「手?」
掴まれた手を、振りほどく。
「私は嫡子。人に手を引かれるようでは駄目だ。行く行くは国を引っ張って行かねばならんのだ。
私は私だけの力で立ち、進むべき道を自分で見つけ、歩かなければならぬ」
そう教え込まれてきた。
私もそれが正しいと思う。
少し歩いたところで振り返ると、そいつは茫然としたマヌケな表情で突っ立った侭だった。
「何をしている。行くぞ」
「、…はい」
そうして漸く私の傍に駆け寄って来る。
私は何か間違っているのか?
この時の奴の表情が、何故だかそう思わせた。
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3,Witchmakers
司馬懿が私の世話係になって一週間が過ぎた。
一週間保ったのは初めてだった。
朝も、昼も、夜も。
此奴と共に生活する事に苦は無い。
例えば、空気の様に。
唯当たり前の様に其処に在る。
そんな感じだ。
いつもの勉強の時間、字を綴りながらも私は何気無く問いかけた。
「お前、字は何と言う」
がく、と一瞬空気が崩れる。
司馬懿は困ったような顔で頬を掻いた後、その整った眉を顰めた。
「集中なされませ」
所詮、他人だという事か。
ギロリと睨みつけてやると、気付かないフリをして書に目を落とす司馬懿。
私はいよいよ気になって仕方がなくなった。
「私は子桓だ…子桓、その口で言ってみろ。命令だ」
筆などその辺に置いて、相手に詰め寄った。
あと一寸で鼻先が触れ合う程に至近距離で、逃げ場の無いように。
「……子桓、様」
ぽろりと出た一言は酷く自信の無さそうな。
それが面白く感じ、私は続けた。
「お前は特別だ。ずっと私の傍に置いてやる。だから字を教えろ」
他人だから教えてやる義理は無い、とは言わせん。
お前は私と一生を共にするのだから。
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